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手広くやりすぎた結果の事業縮小:経営リソース集中から始まった再起への軌跡

Tags: 事業失敗, 起業, 再起, 失敗談, 体験談, 教訓, マインドセット, リソース管理, 資金繰り, 多角化失敗, 選択と集中, 経営判断

起業家は、自らの情熱やアイデアに基づき、様々な可能性を追求したいと願うものです。私自身もそうでした。複数の魅力的な事業アイデアが同時に頭に浮かび、その全てを実現したいという強い衝動に駆られました。しかし、その「あれもこれも」という意欲が、結果として事業全体を危機に陥れる原因となったのです。本日は、多角化の誘惑に負け、リソースを分散させたことによる事業失敗と、そこから学びを得て再起を果たした道のりについてお話しさせていただきます。

成功への焦りが生んだ「手広く」戦略

創業当初、私は特定の分野で小さな成功を収めました。それが自信となり、他の領域にも積極的に目を向けるようになりました。市場には多くの機会があるように見え、競合に先んじなければという焦りもありました。一つの事業が軌道に乗る前に、次々と新しいプロジェクトやプロダクトラインを立ち上げ始めたのです。

当初の考えは、リスク分散と収益源の多様化でした。もし一つの事業がうまくいかなくても、他でカバーできるだろうと楽観視していました。チームメンバーも優秀で、彼らなら複数のタスクを同時にこなせると信じて疑いませんでした。資金についても、既存事業の利益と新規融資で賄えると考えていました。

しかし、現実は想定とは大きく異なりました。

リソース分散が生んだ事業の麻痺状態

複数の事業が並行して動くにつれて、問題が顕在化しました。最も深刻だったのは、経営リソースの圧倒的な不足です。リソースとは、資金、人材、そして私自身の時間と集中力のことです。

まず、資金繰りが急速に悪化しました。各事業はそれぞれ初期投資や運転資金を必要としましたが、期待した収益が上がる前に、資金は枯渇し始めました。特に新規事業は軌道に乗るまで時間がかかりますし、予測外のコストも発生しやすいものです。一つの事業の赤字を補填するために別の事業から資金を回す、という自転車操業状態に陥りました。

次に、人材の問題です。優秀なメンバーはいましたが、彼らを複数の異なる事業にアサインしたことで、それぞれの専門性が十分に活かせなくなりました。また、事業ごとの優先順位が不明確になり、チーム内で混乱が生じました。「自分たちは一体何に集中すべきなのか」という疑問が、メンバーのモチベーションを著しく低下させました。離職者も発生し、残ったメンバーへの負荷は増大しました。

そして、私自身の問題です。私は全ての事業に目を配り、指示を出そうとしました。しかし、物理的に時間も能力も足りません。細かい判断が遅れ、重要な経営判断がおろそかになりました。常に複数の異なる課題に追われることで、精神的にも疲弊し、冷静な判断力が失われていきました。

結局、どの事業も中途半端な状態に留まり、明確な成果が出せないまま時間だけが過ぎていきました。売上は伸び悩み、コストは増加し、資金ショートの危機が現実のものとなったのです。

失敗のどん底で見つけた「集中」という光

資金が底をつきかけ、これ以上事業を継続することが困難であると悟ったとき、私は絶望の淵に立たされました。全ての努力が水の泡になったように感じ、自らの経営者としての能力を深く疑いました。しかし、このどん底で、私はようやく事態の本質に気づくことができたのです。

問題は、個々の事業アイデアが悪かったのではなく、限りある経営リソースをあまりにも広く浅く分散させてしまったことでした。選択と集中が全くできていなかったのです。目の前の機会に飛びつき、リスク管理をおろそかにし、自分たちの真の強みと市場ニーズを深く見極めることを怠りました。

この気づきは、私にとって大きな転換点となりました。「全てを救おうとして、全てを失いかけている」。この状況から脱するためには、痛みを伴う決断が必要でした。それは、複数の事業ポートフォリオを見直し、核となる事業以外は撤退または大幅に縮小するという決断です。

選択と集中、そして再起へ

私は、残存価値や将来性、そして自社の強みが最も活かせる領域を徹底的に分析しました。そして、苦渋の決断ではありましたが、いくつかの事業からの撤退を決定しました。これは、共に汗を流してきたメンバーにも影響を与える非常に難しいプロセスでした。正直なところ、撤退を決めた事業への思い入れもあり、後ろ髪を引かれる思いでした。

しかし、この決断を下したことで、残ったコア事業に全ての経営リソースを集中させることが可能になりました。資金は、選択した事業の成長のために計画的に投下できるようになりました。チームメンバーは、明確になった一つの目標に向かって、それぞれの専門性を最大限に発揮できるようになりました。私もまた、一つの事業の成長に集中することで、より深く市場を理解し、戦略を練り、迅速な意思決定を下せるようになりました。

集中した事業は、それまでの停滞が嘘のように、目に見える形で成長を始めました。顧客の反応も良くなり、売上と利益が安定してきました。かつての資金ショートの危機は遠のき、事業は再び上向き始めたのです。

失敗は「捨てる勇気」と「集中力」を教えてくれた

私の事業失敗は、まさに「欲張りすぎたこと」が原因でした。起業家として、新しいアイデアを追求する情熱は重要ですが、それを無計画に実行に移すことの危険性を痛感しました。限りあるリソースをどこに集中させるか、そして何を選び、何を捨てるかという選択の勇気が、事業成功のためには不可欠です。

将来起業を目指す皆さんにお伝えしたいのは、「あれもこれも」と手を広げる誘惑に注意してほしいということです。まずは、これだと決めた一つの事業に、持てる全てのリソースを集中させること。そこで確固たる基盤を築いてから、次のステップを考える方が、成功への確率は格段に高まるでしょう。

私の失敗は、大きな苦痛を伴いましたが、経営における集中力リソース管理の重要性を身をもって教えてくれた貴重な経験です。失敗は終わりではなく、そこから学び、次に活かすことで、より強く、賢くなるための機会だと信じています。もし今、あなたが複数のアイデアで迷っていたり、リソースが分散していると感じているなら、一度立ち止まり、「何に集中すべきか、何を捨てるべきか」を冷静に見つめ直してみてはいかがでしょうか。