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創業メンバー間の役割分担の曖昧さとスキル偏重が招いた事業停滞:「なんとなく」で始めた組織づくりから学んだこと

Tags: 組織づくり, チームマネジメント, 創業期, 役割分担, 再起

「サバイバーズ・ボイス」をご覧いただき、ありがとうございます。このサイトでは、事業の失敗を経験し、そこから立ち直り再起を果たした起業家の皆様の貴重な体験談をご紹介しています。今回は、創業メンバー間の役割分担の曖昧さとスキル偏重が原因で事業が停滞し、苦境を乗り越えたある起業家のストーリーをお届けいたします。

熱意だけで始まったチームの歪み

創業当初は、事業アイデアへの強い情熱と、「このメンバーならきっとうまくいく」という根拠のない自信に満ちていました。集まったのは、学生時代の友人や前職の同僚など、気心知れた仲間たちです。それぞれ特定の分野(例えば、技術開発やデザイン)には長けていましたが、事業運営全体を見渡した際に必要な、営業、マーケティング、管理、財務といった役割に必要なスキルや経験が偏っていました。

しかし、当時の私たちはその点に深く考えを巡らせることはありませんでした。「皆で力を合わせれば、なんとかなるだろう」と、具体的な役割分担や責任範囲を明確に定めないまま、走り出してしまったのです。

失敗に至る経緯:膨らむ業務と見えない責任

事業が軌道に乗り始め、顧客が増え、業務量が拡大するにつれて、チーム内の問題が顕在化してきました。特定のメンバーに業務が集中し、キャパシティを超える状況が発生しました。一方で、何を担当すべきか分からない、あるいは自分の得意分野以外の業務に関わりたがらないメンバーもいました。

特に深刻だったのは、売上を立てるための営業活動や、継続的な顧客関係を築くためのマーケティング、そして日々の経費管理や請求といった管理業務を専門とする人材が不足していたことです。プロダクトは良いものだったかもしれませんが、それを市場に届け、収益につなげるための機能がチーム内に決定的に欠けていたのです。

誰もが自分の「得意」なことばかりに目を向け、「苦手」な部分や、チーム全体にとって「必要」な業務に手を出したがらない、あるいはどう手をつけて良いか分からない、という状況が常態化しました。会議では、「誰がやるのか」「なぜ進まないのか」といった非難めいた空気が流れ始め、創業当初の熱意は徐々に失われていきました。

事業停滞の核心と苦悩:資金繰りの悪化と精神的な疲弊

役割分担の曖昧さとスキル偏重が引き起こした結果は、明確な事業の停滞でした。売上は頭打ちになり、経費だけが膨らんでいきました。資金繰りはみるみる悪化し、次の運転資金をどう確保するかというプレッシャーが常にのしかかるようになりました。

さらに辛かったのは、創業メンバー間の人間関係の悪化です。お互いへの不満が募り、コミュニケーションがぎくしゃくするようになりました。夜遅くまで働く日々でも、チームの一体感はなく、孤独を感じることも多かったです。この精神的な苦痛は、資金繰りの問題以上に事業継続の大きな障壁となりました。このままでは事業が立ち行かなくなる、そして何よりも、大切な仲間との関係まで壊れてしまうのではないか、という強い危機感を覚えました。

失敗から学んだこと:組織は「なんとなく」で成立しない

この苦境を通じて、痛烈に学んだことがあります。それは、どれほど素晴らしいアイデアや技術があっても、それを推進するための「組織」が機能しなければ、事業は成り立たないということです。そして、その組織は「なんとなく」の阿吽の呼吸や、気心知れた関係性だけでは決して機能しない、ということです。

特に重要だと気づいたのは、以下の点です。

私たちは、「仲が良い」という関係性に甘え、組織として最低限必要な規律や仕組みづくりを怠っていたのです。

再起への具体的なステップ:痛み伴う組織再編と外部の知見導入

学びを得た私たちは、事業を立て直すために、いくつかの厳しい決断を下しました。

まず、事業継続のためには、チーム体制を根本的に見直す必要があると判断しました。創業メンバーだけで無理に全ての役割を担おうとするのではなく、事業フェーズに必要なスキルを持つ人材を外部から採用することにしました。特に、営業やマーケティング、管理部門の実務経験者をチームに加えることで、これまで手薄だった部分を補強しました。これは、創業メンバーにとっては自分たちの不足を認めることでもあり、精神的に簡単なことではありませんでした。

次に、残ったメンバー間で、改めて役割と責任範囲を具体的に言語化し、共有しました。誰がどのタスクに責任を持ち、いつまでに何をするのかを明確にしたのです。また、週次で進捗状況と課題を共有するミーティングを必須とし、オープンなコミュニケーションを心がけるようにしました。

さらに、信頼できる外部の経営コンサルタントに協力を仰ぎ、客観的な視点から組織の問題点や改善策に関するアドバイスを受けました。身内だけでは気づけない課題や、感情的にならずに問題解決に取り組むための道筋を示してもらうことができたのは非常に有益でした。

これらの取り組みは、すぐに劇的な効果をもたらしたわけではありません。しかし、少しずつチームとして機能し始め、業務の効率が改善され、停滞していた事業が再び動き出すのを感じました。資金繰りも、少しずつではありますが安定の兆しが見え始めました。

現在の視点と読者へのメッセージ

あの時の失敗は、非常に苦しい経験でしたが、今の私たちにとってかけがえのない教訓となっています。組織は単なる人の集まりではなく、共通の目標達成に向けて機能する仕組みであるということを身をもって理解しました。そして、その仕組みづくりこそが、起業家の重要な役割の一つであると認識しています。

将来起業を目指す読者の皆様にお伝えしたいのは、熱意やアイデア、プロダクトへの自信は非常に大切ですが、それだけでは事業は回りません。どのようなスキルセットが必要か、誰がどの役割を担うのか、そしてメンバー間のコミュニケーションをどのように行うのか、といった「組織づくり」について、創業のかなり早い段階から具体的に検討し、計画を立てておくことを強くお勧めします。

もし、創業メンバーだけで必要なスキルを全てカバーできない場合でも、それは問題ではありません。大切なのは、不足を正直に認め、外部からの採用やパートナーシップ、あるいはメンバーの育成といった形で、必要なリソースを適切に補う計画を持つことです。

また、人間関係に甘えず、事業にとって必要な、時には厳しい議論も恐れずに行ってください。そして、定期的に立ち止まり、チームとして健全に機能しているか、課題はないかを確認する機会を持つことが、将来的な大きな失敗を防ぐためのリスク管理につながります。

失敗は確かに痛みを伴いますが、そこから学び、改善を続けることで、事業はより強固なものとなっていきます。

まとめ

今回は、創業メンバー間の役割分担の曖昧さとスキル偏重が引き起こした事業停滞とその乗り越え方についてご紹介しました。熱意だけでは組織は機能しないこと、必要なスキルセットの洗い出し、役割と責任の明確化、そしてオープンなコミュニケーションの重要性といった教訓は、事業を立ち上げる上で非常に重要です。

皆様が起業という素晴らしい挑戦をされる中で、この記事がリスク管理の一助となり、困難に直面した際に乗り越えるための一つのヒントとなれば幸いです。失敗を恐れず、しかし失敗から学び続けるマインドセットを持って、挑戦を続けていただければと思います。