サバイバーズ・ボイス

BCP不在が露呈した外部ショック:計画性の甘さから学んだ事業継続の哲学

Tags: 事業失敗, 再起, リスク管理, 資金繰り, 危機管理

予期せぬ危機に立ち尽くす:事業停止の瀬戸際で学んだこと

私が経営していた事業は、ある予期せぬ外部ショックによって、わずか数ヶ月で存続の危機に瀕しました。それは、世界中を襲ったあのパンデミックでした。それまで順調に成長曲線を描いていた事業が、文字通り急停止させられたのです。当時の私は、事業を「成長させること」にばかり意識が向いており、「守ること」に対する備えが決定的に不足していました。事業継続計画(BCP)という言葉は知ってはいましたが、「うちのような小さな会社には関係ない」「起きるはずがない」と軽視していたのです。この甘い認識が、後に事業を立ち直らせる上で、痛烈な教訓となりました。

計画性の欠如が招いた事業の脆弱性

私の事業は、特定の場所での対面サービスと、特定のサプライヤーからの安定的な供給に依存していました。パンデミックが発生し、外出制限や営業自粛が求められるようになると、売上は瞬く間に激減しました。さらに、海外からの部品供給がストップし、サービスの提供そのものが困難になったのです。

事業の根幹が外部環境の激変にいかに脆弱であったか、そしてそれに対する何ら具体的な備えがなかったことを、この時痛感しました。キャッシュフローは悪化の一途をたどり、家賃、人件費、借入金の返済といった固定費が重くのしかかってきました。精神的な苦痛も非常に大きなものでした。従業員たちの不安げな顔を見るたび、「彼らの生活を守れないかもしれない」という重圧に押し潰されそうになりました。眠れない日々が続き、孤独感の中で、「なぜ、もっと早くリスクを考えて手を打たなかったのか」と自らを責め続けました。

失敗から得た「事業は攻めと守りの両輪である」という気づき

この絶望的な状況の中で、私は立ち止まり、事業全体を根本から見つめ直す必要に迫られました。そして、「事業は成長という『攻め』だけでなく、あらゆるリスクに備える『守り』が不可欠である」という、起業家として最も基本的な哲学を学びました。

具体的には、以下の点に気づき、学びとしました。

  1. リスクの特定と評価の重要性: 想定外だと思っていた事態も、可能性としては存在したはずです。どのようなリスクが事業に影響を与えうるのかを事前に洗い出し、その影響度と発生確率を評価しておくことの重要性を痛感しました。
  2. 事業の多角化と分散: 特定のチャネル、特定のサプライヤー、特定のビジネスモデルへの過度な依存は、事業を脆弱にします。リスクを分散させるための代替策や、複数の収益源を持つことの必要性を認識しました。
  3. キャッシュの確保と資金計画: 緊急時に事業を維持するための十分なキャッシュ(運転資金)の確保と、資金繰りの詳細な計画、そして定期的な見直しの重要性を学びました。
  4. 従業員とのコミュニケーション: 不安な時こそ、従業員に現状を正直に伝え、共に解決策を探り、彼らの意見に耳を傾けることが、組織の結束を強める上で不可欠であることを学びました。

再起への具体的なステップとマインドセットの変化

これらの学びを胸に、私は再起への道を歩み始めました。まず、徹底的なコスト削減を行いました。事務所の規模縮小、不急不要な経費の削減など、痛みを伴う判断もありましたが、事業を存続させるためには不可欠でした。

次に、事業モデルの見直しです。対面サービスに依存していたビジネスを、オンラインでの提供が可能な形にシフトさせました。新しい販路を模索し、サプライヤーに関しても代替となる企業を探しました。幸い、既存の顧客の中には、オンライン化されたサービスを支持してくださる方もいらっしゃいました。

そして、最も重要な変化はマインドセットです。失敗の経験を隠すのではなく、率直に認め、そこから何を学ぶべきかを常に考えるようになりました。また、一人で抱え込まず、信頼できるメンターや仲間に相談することの重要性を学び、精神的な支えを得ながら困難に立ち向かう力がつきました。事業継続計画(BCP)も、机上の空論ではなく、現実的なリスクを想定した具体的な行動計画として策定し、従業員と共有しました。

現在の視点と将来起業する方へのメッセージ

現在、私の事業は当時の危機を乗り越え、以前とは異なる形で安定を取り戻しつつあります。あの失敗は、確かに苦しく辛い経験でしたが、事業の脆弱性を露呈させ、私に起業家としての「守り」の視点と、計画性、そして何よりも困難を乗り越えるマインドセットを教えてくれました。

これから起業を目指す皆さんにお伝えしたいのは、成功事例から学ぶことはもちろん重要ですが、同時に失敗事例からリスクの存在や、それに対する備えの重要性を学ぶことも同じくらい大切だということです。特に、予期せぬ外部環境の変化に対する備えは、規模の大小に関わらず、全ての事業にとって不可欠です。

「攻め」と「守り」、この両輪をバランス良く意識すること。計画性を持つこと。そして、万が一失敗に直面しても、それを学びの機会と捉え、必ず乗り越えられると信じる強い意志を持つこと。これらが、激動の時代に事業を継続し、成長させていくための鍵となると私は確信しています。失敗は終わりではなく、より強く、賢くなるためのスタートなのです。